「世の中の趨勢(すうせい)は暴力団追放だよ」
 阿岐本が言った。「そりゃあ、しょうがねえことだ。俺たちみてえのが近所にいりゃあ、落ち着かねえだろうからね」
「私たちが迷惑を被ったというのなら仕方がないと思いますよ。でも、阿岐本組からそんな目にあったことは一度もない」
「俺たちみてえのがいるだけで迷惑なんだよ。それはよくわかる。でもね、出ていけと言われても、俺たちゃ他に行くところがねえんだ。俺一人ならどうにでもなる。けど、そうなりゃ、この日村や若い衆が食っていけねえ」
「わかってますよ」
「食うに困ると、人間何をするかわからねえ。盗っ人ならまだしも、こいつらは生来乱暴者だからね。人様を殺めたり傷つけたりするかもしれねえ」
「はい」
「おっと。つい愚痴になっちまったな。源さんにこんなことを言っても始まらねえ」
「阿岐本組の人は怖い人だと、みんな言うけど」
 香苗が言った。「本当に怖いのは、自分のことしか考えていない人だと思う」
 阿岐本は笑みを浮かべた。
「さすが、源さんの孫だねえ。お嬢はかしこい」
「任侠って、人のために生きるってことでしょう。それ、大切なことだと思う」
 香苗の言葉に、阿岐本は自分の頭をつるりと撫でた。