リズムと言語
おなかの赤ちゃんに話しかけるということも珍しくない今日、胎内の赤ちゃんに伝わっているのは、言語というよりそのリズムだけ、という事実に、がっかりされた方もいらっしゃるかもしれません。
しかし私たちは、そのリズムを手がかりにして言語を聞き取っていると言っても過言ではないのです。
たとえば日本語と英語では、リズムがだいぶ違います。
英語の発話では、拍子をとるように、強い音が定期的に出てきます。たとえば、“Have a good time.” であれば、「ハー」ヴァ 「グー」ッド 「ター」イム(「」のところは強く、伸ばして言います)のようになります。
他方、日本語では、かな文字一文字分が一拍というリズム進行です。それで “Have a good time.” を日本語のリズムで言うと、「ハブアグッドタイム」と、なんだか平板な言い方になります。このような言い方では、なかなか英語母語話者に理解してもらえません。
あるいは、「観光ですか?」という日本語の質問文も、上がり調子のイントネーションにはなるとは言え、一文字一拍のリズムで淡々と「カンコウデスカ」と言うのが日本語です。しかし、英語母語話者がこれを言おうとすると、英語のリズムが入りこんで、「カーンコ デース カア」となったりします。
なおこれは以前アメリカに行ったとき、人の良さそうな入国審査官が、私が日本人であることに気づいて言ったことばです。私としては、状況が状況なだけに、相手は当然英語を話すだろうと構えていました。そこに、英語的なリズムの日本語です。
何を言われたのかよくわからずぽかんとする私に向かって、その親切な入国審査官は、私がわかるまで三度にわたって、そのことばを繰り返してくれたのでした。