胎内の赤ちゃんには、声や言語はどう聞こえているのでしょうーー(写真提供:Photo AC)
「子どもはラクラクとことばを覚えられてうらやましい」「幼い時から外国語に触れていたら、今頃はバイリンガルになれたのに…」。いずれも「ことばの学習」についてよく耳にする一言です。一方「赤ちゃん研究員」の力を借りて、人がことばを学ぶプロセスを明らかにしてきた東京大学の針生悦子先生は「赤ちゃんだってことばを覚えるのに苦労している」と断言します。その無垢な笑顔の裏で、実は必死にことばを学んでいた…あなたは信じられるでしょうか? 書籍『赤ちゃんはことばをどう学ぶのか』をもとにした本連載で、赤ちゃんのけなげな努力に迫ってまいりましょう。

ことばは胎内でどう聞こえるのか

実は、胎児の聴覚は妊娠24週頃になれば働き始めます*1。

ですから、生まれる前に耳にした音を赤ちゃんが覚えていたとしても、何の不思議もありません。ただ、実際に胎児が置かれている状況を考えてみると、声や言語は、私たちがふだん耳にしているのとは、かなり違ったふうに聞こえていると思われます。

私たちは、音の振動を鼓膜や骨で感じ取ることによって、音を聞きます。しかし、羊水に浮かぶ胎児の耳には詰めものがされたような状態です。骨もやわらかいので、音の振動が伝わりやすいとは言えません。

ですので、そんな胎児が“聞く”音は、私たちがふだん聞いている音よりかなり小さく、ぼやけたものになっているはずです。

また胎児は羊水に浮かび、その周りを膜や脂肪で包まれています。それらは、外界から伝わってくる音を吸収してしまいます。結果として、外ではかなり大きかった音も、胎児に届く頃にはだいぶ小さくなります。