赤ちゃんは言語のリズムに敏感な状態で生まれてくる
実際のコミュニケーションにおいて、言語のリズムは単語や文を正しく聞き取るための重要な手がかりになっていて、生まれたばかりの赤ちゃんは、このリズムに敏感です。自分が胎内で聞いたのではない外国語でさえ、リズムの違いで聞き分けられることが、馴化-脱馴化法を使って確かめられています*3。
その研究では、フランスで生まれた赤ちゃんに、まず日本語の音声を聞かせました。最初のうちは興味をもって聞いてくれ、同時におしゃぶりをくわえさせると、勢いよく吸ってくれます。
しかし、繰り返し聞かされる日本語の音声に飽きてくると、おしゃぶりの吸い方はゆっくりになります。そのタイミングで、聞かせる音声を英語に変えると、赤ちゃんは変化に気づいて注意を回復し、ふたたび勢いよくおしゃぶりを吸うようになったのです。
このように赤ちゃんは、胎内でなじんだ言語に限らず、言語のリズムに敏感な状態で生まれてきます。そして、いよいよ本格的に言語の学習にとりかかるのです。
*1 Birnholz, J. C., & Benacerraf, B. R. 1983 The development of human fetal hearing. Science,222(4623), 516-518.
*2 Gerhardt, K. J., & Abrams, R. M. 1996 Fetal hearing: Characterization of the stimulus and response. Seminars in Perinatology, 20(1), 11-20.
*3 Nazzi,T., Bertoncini, J., & Mehler, J. 1998 Language discrimination by newborns: Toward an understanding of the role of rhythm. Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performance, 24(3), 756-766.
※本稿は、『赤ちゃんはことばをどう学ぶのか』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
『赤ちゃんはことばをどう学ぶのか』 (著:針生悦子/中公新書ラクレ)
東京大学で認知科学や発達心理学の研究に従事する著者は、赤ちゃんの「驚き反応」に着目するなどして、人がことばを学ぶプロセスについて明らかにしてきました。子どもはラクラクとことばを覚える「天才」? 赤ちゃんは耳にした「音」をどうやって「ことば」として認識する? 生まれた時から外国語に触れていたら、誰でもバイリンガルになれる? 本書を読めば、赤ちゃんの無垢な笑顔に隠れた努力に驚かされること間違いなし!