「視聴者の方にとっても、ある日突然の悲しいお別れになってしまうわけで……。それじゃいけない、僕は元気なうちに笑顔で《卒業》しようと決めました。」(撮影:木村直軌)
半世紀以上にわたりお茶の間で親しまれている演芸番組『笑点』。その初期からレギュラーメンバーとして出演し、黄色い着物が目印の林家木久扇さんが、2024年3月で番組から卒業することを発表しました。その理由を訊ねてみると(構成=山田真理 撮影=木村直軌)

毎週試験を受けているような

3月に『笑点』を卒業することを発表してから、いろんな人に「残念だ」「寂しい」とお声をかけていただいています。55年も大喜利のメンバーでいさせてもらって、いつの間にやら最年長。僕も86歳になりました。

この年までテレビのレギュラーをやっている人って、世界でも珍しいんだそうです。黒柳徹子さんは僕より年長だし番組の回数も多いけれど、あちらは司会者。お笑いだけで週に1回、テレビに出続けているのは僕しかいない。

もちろん番組は楽しいし、人を笑わせることも大好きです。ただ大喜利というのは、毎週試験を受けているようなものでね(笑)。問題出されて回答して、それも自分らしく面白くなきゃっていうのは、けっこうハラハラドキドキするものなんですよ。

ほかにも寄席や地方公演の仕事もあるし、全国ラーメン党を立ち上げたり本を出したり。要は55年間、ずーっとホッとする時間がなかった。もっと自分をワクワクさせる時間を持ちたいと考えるようになったのです。

そうなるとやっぱり、自分の寿命というのが気になってくる。番組では、初代司会者の立川談志さんをはじめ、前田武彦さん、三波伸介さん、三遊亭圓楽さん(五代目)、桂歌丸さんたちが亡くなってしまいました。

大喜利メンバーの林家こん平さん、三遊亭小圓遊さん、三遊亭円楽さん(六代目)もね。そのたび何回も悲しみがあって、でも、落語の番組だから笑って乗り越えなきゃいけなくて。それもつらかったですね。

最初からいた人は、みんな死んじゃったんです。視聴者の方にとっても、ある日突然の悲しいお別れになってしまうわけで……。それじゃいけない、僕は元気なうちに笑顔で「卒業」しようと決めました。