巡礼の旅
山梨県にある日蓮宗総本山久遠寺の修行僧だった関法尊(ほうそん)師に出会い、教えを受けることにしました。人を悲しみから救ってくれる観音様の慈悲を知り、自らも観音様と一体となることを望んだのです。
近畿二府四県と岐阜県に点在する「西国三十三観音霊場」を巡礼しました。日本ではもっとも古い霊場で、全部を回ると「現世のあらゆる罪が消滅する」というので多くの巡礼者を集めました。仁子はいつも行けるところまでは車で行き、後はたった一人で歩きました。元気な時は、馬が歩く幅くらいしかない狭い山道を登りました。観音様めぐりがすべて終わると、すぐに新しい巡礼の旅を始めました。
現世利益を叶えてくれるという「近畿三十六不動尊霊場」、病気を治して長生きできるという「西国四十九薬師霊場」、さらに、他人を苦しめないようにという「尼寺三十四霊場」をめぐり、その合間に「関西花の寺二十五ケ所」を訪れて季節ごとに咲くアジサイ、ハナショウブ、カキツバタなどを愛でるのでした。
ただし、弘法大師ゆかりの寺を訪ねる「四国八十八ケ所霊場」めぐりだけは晩年の楽しみにとっておきました。
仁子の巡礼はすべて日帰りでした。車や飛行機で出かけますが、帰る頃になるといつもそわそわし始めます。家のことと、百福の帰りを気にしているのです。