菊池寛賞を受賞した吉村昭(左)と、『玩具』で芥川賞を受賞した津村節子(右)夫妻(写真提供:新潮社)
『星への旅』で太宰治賞を、『戦艦武蔵』や『関東大震災』で菊池寛賞を受賞した吉村昭と、『玩具』で芥川賞を受賞した津村節子。小説家夫婦である2人は、どのようにして結ばれて人生を共に歩んだのか、そして吉村を見送った後の津村の思いとは。今回は、2人の馴れ初めをご紹介します。

吉村昭の人柄

吉村昭といえば、手堅く厳格なイメージがある。

同じ昭和2年生まれで親交のあった城山三郎は、2006年(平成18年)、吉村の訃報を伝える新聞で、

〈欠点がない人でした。まじめで、きちんと約束を守る。(略)人の悪口も言わず、愚痴をこぼさない。〉(朝日新聞 平成18年8月2日朝刊)

と追悼した。丹羽文雄(にわふみお)が主宰する同人雑誌「文学者」の仲間だった文芸評論家の大河内昭爾(おおこうちしょうじ)は、

〈吉村さんはストイックな人ですし、照れ性でしたね。〉(「小説新潮」平成19年4月号)と言い、同じく「文学者」出身の評論家・秋山駿も、次のように記す。

〈いつも温和な笑顔で優しく話しかけてくれるこの人は、実は、こわい人ではあるまいか。自分で自分の心に誓ったことだけは必ず断行する。あるいは強行する。そういう勁さを生きる人だ。しかも、その勁さを秘めて、温和な風情を見せている。〉(「群像」平成18年10月号)