最低限何を守ってあげたいかを考えておく
ーー父が認知症と診断され、森さんの介護は変わったという。許すことができるようになった。介護ではトイレ問題に最も心を砕いた。
「褒める介護」を心がけるようになりました。かかりつけのお医者さまには「森さんが手をかけすぎたから依存するようになった」と言われました。だから、「人に必要とされているということを1つでも残してあげよう」と。
例えば、父はお米をたくのが得意。冷たい水で研いで氷を1つ入れるのがコツと自慢していました。私がお米を2合持っていき「研ぐのと、氷を入れるのはパパがやって」とか、「今私は料理をしていて手が濡れているので、明日買ってくるものをメモして」とか。
そして、「ご飯たいてくれたの、偉いね」などと褒める。「誰かの役に立っている」という感覚を持ってもらうことを大事にしました。
自分が心してやってよかったなと今思うのは、トイレの自立です。父が少しでも尊厳を守って生活するためには、トイレの自立が最重要。父は認知症になる前から「ちびらない」と自慢し、「おむつをするようになったら施設に入る」と言っていました。脚のリハビリを頑張ったのも、トイレに自分で行きたいからでした。
私は祖母の介護の経験もあります。その時はおむつかえがとても大変で、体の小さい祖母でさえ、私の体はダメージを受けたので、父がおむつになったら介護は難しいと考えていました。「おむつを替えたくないので施設に入って」と言うのも嫌でした。トイレはできるだけ見守って促してあげるほうが、介護する方も楽です。
その過程で、私自身が高齢になった時に何を自立していたいかを見つめました。結論は3つ。「トイレに歩いて行く」「自分が好きなものを食べる」「自分で歯を磨く」です。介護をする時、自らの老後を思い浮かべ、最低限何を守ってあげたいかを考えておくことも大切ではないかと思います。