いつも誰かが見ていてくれる

ーー自動車を運転しなくなった後、父はめっきり弱ってしまった。家を訪ねてもベッドから起きてこない。用意しておいた食事をとっていない。目力がない。急激に痩せてきた。病院に連れて行っても入院は断固拒否。結局、歌手と名字が同じことから父が「まりあちゃん」と呼ぶお気に入りのケアマネージャーの勧めで、やっと入院を受け入れた。「病院は、いつも誰かみてくれているのがいいな……」と父。「ごめんね」と森さんは心の中で謝った。現在、父は施設に移り安寧な日々を過ごしている。

おしゃれな父は、公園を散歩する時もベレー帽をかぶり、3歳の私と2歳の弟がかぶる帽子をコーディネートした。95歳の今でも、頭髪の薄さを隠すためと防寒の為、外出時に父はハンチングをかぶる。少しおしゃれ心が残っている父を見ると、私も歳をとっても身ぎれいにしたいと思うようになってきた

入院してまずよかったのは、父から「ここはいいところだ。御飯もおいしいし」と連絡が来ることでした。初めて救われた気がしました。私は長女体質で「自分が責任を持って全部やらなければならない」と気負ってやってきました。

今、思い返すと、毎日夕方私が行くまで、父は飲まず食わず。誰もいない時に体調が悪化し、1人で知らないうちに死んでいたら…という恐怖と向き合っていたのでしょう。

現在入っている老人ホームでも「いつも誰かが見ていてくれる」という安心感があるようです。そして今、自分は1番死なないと思っているのではないでしょうか。