表情フィードバック仮説とは

ただ、必ずしも相手がいなくても、自らの表情を変えるだけで気分を変えることができるのではないか、という仮説があります。これを表情フィードバック仮説と言います。

ドイツのフリッツ・シュトラックは、この仮説を実証するために、とてもユニークな実験を行いました。ペンをくわえながら漫画を読ませて、内容を面白く感じるかを評価させたのです。すると、ペンを歯でくわえて口を横に開きながら漫画を読むと内容が面白く感じ、口をすぼめるようにペンをくわえると、漫画の内容がつまらなく感じるという結果になりました(*2)(図1)。

<図1>「歯でペンをくわえて横に広げる」(左)と「唇でペンをくわえて口をすぼめる」(右)のイメージ

この研究は表情による気分の変化を実証した実験として広く知られていますが、その後、再現性が問題となり、数多くの再テストが行われ、結果は割れている状態です。

そもそも、この実験にはいくつか問題があります。まず、ペンをくわえた表情が、本当の喜びや悲しみの表情になっていないことです。また、漫画のユーモアを評価するのに、必ずしも感情の発生は関係しません。そのため、この実験だけでは、表情による気分の変化を判断することは難しいのです。