ボトックス注射で人の感情や気分はどうかわるか

そんな状況下で、思わぬ方向から表情のフィードバック仮説をサポートする研究が現れました。それはボトックス注射によって表情筋が不動化した人たちの感情や気分の変化を調べたというものです。

『顔に取り憑かれた脳』(著:中野珠実/講談社)

ボトックスとはボツリヌス菌がつくる毒素のことで、神経の情報伝達を遮断する効果があります。これを筋肉に打つと、筋肉が麻痺し、収縮しなくなるのです。そのため、美容外科の分野では、顔の表情ジワを取るのに盛んに使われています。

そもそも、表情ジワというのは、老化に伴い、肌の弾力が失われることで、表情の跡がついてしまうものです。眉間のシワは眉をひそめる表情、カラスの足跡とも言われる目じりのシワはデュシェンヌの真の笑いによってつくられたものです。

そのため、前者は眉毛の内側の筋肉に、後者は目の下の筋肉にボトックス注射をすると、表情筋が動かなくなり、結果的にシワが目立たなくなるのです。

そこで、このボトックス注射により、特定の表情をつくれなくなった人の感情や気分がどう変わるかを複数の研究グループが調べました。