さまざまな人とコミュニケーションをとるために

そして、顔の場合は、脳の紡錘状回という場所を中心に、人間の顔、そして、特に同じ人種の顔に対して、ごくわずかな違いでも識別できるような神経ネットワークが構築されるのです。

ただし、たとえ日本人でも、LとRの識別を必死で訓練すれば、再び脳がそこにリソースを割くので、ある程度はできるようになります。ましてや、子どものうちから訓練していれば、ということで、英会話教室に通わせている親も少なくありません。

また、多国籍の人々と日ごろから接する機会が多ければ、同じ人種以外の顔の識別能力や表情を読み取る力も高まり、互いの理解も深まるでしょう。

そういう意味で、専門的な能力を発揮するには、分野を絞ってそれに特化した神経ネットワークをつくるよう努力することが大事ですが、さまざまな人とコミュニケーションをとるためには、多様な情報を取り入れることで、幅広い分野に対応できる神経ネットワークをつくることが大切なのでしょう。

 

<参考文献>
*1_ Pascalis, O., de Haan, M. & Nelson, C. A. Is Face Processing Species-Specific During the First Year of Life? Science 296, 1321-1323, doi:10.1126/science.1070223(2002).

 

※本稿は、『顔に取り憑かれた脳』(講談社)の一部を再編集したものです。


顔に取り憑かれた脳』(著:中野珠実/講談社)

デジタル時代の今、ネット上は過度に加工された顔であふれている。これはテクノロジーの急速な発展がもたらした、新たな現代病なのかもしれない――なぜ、人間は“理想の顔”に取り憑かれるのだろうか。そのカギとなる「脳の働き」に最新科学で迫る。そこから浮かび上がってきたのは、他者と自分をつなぐ上での顔の重要性と、それを支える脳の多様で複雑な機能の存在だった。

鏡に映る「自分の顔」が持つ、新たな意味にあなたは驚くかもしれない。