なぜ、言われるがままに供述をしたのか

アラームが10分も鳴っていて誰も気づかないはずはない。捜査では、当日、夜通し病院にいた他の患者の家族もアラームを聞いていないことが判明し、西山さんの立件は難航した。

そこで県警は西山さんに、後に調べてわかった「呼吸器のアラーム音を消し続ける仕組み」を教え、他の証言と整合性がとれるように供述させたのだ。アラームは止めてから1分以内にボタンを押せば再び音が鳴らないが、看護助手に呼吸器操作の資格はなく、西山さんは止める仕組みも知らなかった。

供述書には、動機について「自分は助手で待遇も悪い。病院に迷惑をかけようと思って誰でもいいから患者を殺そうとした」と書かれた。

しかしなぜ彼女は、言われるままにの供述をしたのか。西山さんは服役中に受診した精神科医に、「軽度の発達障害で相手に迎合しやすい」と診断された。「2人の兄は勉強ができたのに自分はダメでコンプレックスがある」と語る西山さん。

彼女は「美香さんも賢いところあるで」などと言ってくれる山本刑事に、「優しい男性だ」と恋心を抱いてしまったのだ。当時について西山さんは、「『鳴ってなかった』と言うと刑事さんに『そんなはずはない、嘘つくな』と凄まれて怖かった。でも鳴っていたと認めると、急に優しくなった」と振り返る。

山本刑事は、「殺人罪でも執行猶予がついて刑務所に入らないですむこともある」とか、西山さんの拘置所での規律違反について「私が処分を取り消してあげる」などと優しく持ちかけた。

西山さんは「刑事さんのことを好きになって、気に入ってもらおうと思ってどんどん嘘を言ってしまった。こんなことになるとは思わなかった」とうなだれる。