獄中から送られた350通を超える手紙

井戸弁護士は「客観的に見てさまざまな矛盾があるなか、取り調べた刑事には彼女が真犯人ではないという認識は十分、あったはず。でも自供させれば大きな手柄。やったと思ったでしょう」と話した。確定判決には、「責任を軽くしようと当初は虚偽供述をしたものの、真実を供述するに至ったと考えれば納得できる」とある。

しかし、井戸弁護士は「西山さんがやってもいない犯罪を自白するはずがないという先入観に基づいた、杜撰(ずさん)な審理。人はさまざまな理由で嘘をつくのです」と指摘する。

別の問題もある。県警の依頼で死亡した男性の検視を行った医師は、「死因は低酸素状態の窒息」と判断した。この医師は警察からの「呼吸器が外れていた」という間違った情報をもとに診断を下していたのだ。井戸弁護士は、「警察が誤情報を与えたために起こったことで監察医に責任はないかもしれないが、遺体と向き合い真実を明らかにするのが本来では」と疑問を呈する。

彦根市に住む西山さんの両親は、娘と面会するため毎月欠かさず和歌山刑務所を訪れていた。母・令子さんに聞くと「私は『事件や裁判の話はしないようにしましょう』と夫(輝男さん)に言っていたのですが、夫がどうしても裁判や事件のことを聞くので、美香とよく口論になった」という。

西山さん自身、「私が死なせたなんて、なんであんな馬鹿なことを言ってしまったのか」と自責の念に苛まれていた。忘れたいことを父に繰り返し問われてつらくなり、苛立ってしまったのだろう。しかし親としては、進展のないなか、なんとか糸口を見つけたかったはずだ。

獄中の娘から両親へ送られた350通を超える手紙には、「自分は殺していない。(取調官を)信用してしまったこともアカンし好意を持ってしまったこともアカン。みんなにつらい思いをさせてしまって……」と書かれている。