なかった犯罪のでっち上げ

西山さんは一審から無実を主張したが、大津地裁は05年、「自白の自発性」を認めて懲役12年の判決を下し、07年に最高裁で刑が確定した。

獄中から、第一次再審請求を行うが棄却。しかし出所後の17年12月、第二次請求について大阪高裁の後藤真理子裁判長は「警察官などから誘導があり、迎合して供述した可能性がある」と再審開始を決定した。弁護団の「植物状態だった男性は血中のカリウム値が異常に低く、致死性不整脈で病死した可能性が高い」という訴えを裁判所が認めたのだ。

つまるところ、男性の死は自然死だった。井戸弁護士は「事件でも事故でもない。存在しない犯罪を警察と検察がでっち上げた」と憤る。

実はA看護師には、2時間ごとに男性患者の痰の吸引をする義務があった。その日、本当は午後11時の吸引までしかしていないのに、Aさんは「午前3時に吸引した」と看護日誌にを書いた。Aさんは自分の怠慢で男性が痰を詰まらせ亡くなったと思い込み、責任を問われることを恐れて咄嗟に「呼吸器が外れていた」と嘘をついた可能性が高い。

しかし西山さんは、仲の良いAさんが呼吸器は外れていたと証言しているのに、自分がアラーム音は鳴っていないと供述したために、彼女が苦しんでいると思い込み、守ろうと嘘をついたのだ。

最後の取り調べで山本刑事との別れ際、西山さんは「離れたくない」と抱きついた。「彼は拒否しなかった。『頑張れよ』と励ましてくれた」と振り返る。一昨年、筆者が西山さんを訪ねて「山本刑事に騙されたと思いますか」と尋ねると、「もう考えたくないです」と机に突っ伏した。

「20代の一番大事な時を刑務所で過ごすのはつらかった」と漏らした西山さんは、亡くなった男性について、「職員として申し訳ないと思っていますが、殺していないことだけはわかってほしい」と訴えた。

17年、再審決定後に検察が特別抗告(撮影:粟野さん)