「これから結婚しても……」

喜びの決定から5日後の3月24日、彦根市の喫茶店で久しぶりに西山さんに会った。「『太るからオレンジジュースは飲むな』って井戸先生に言われてるけど、(精神)安定剤を飲むと喉が渇くんですよ」と笑った。

出所当時は「結婚もしたいし子どもも欲しい」と話していた彼女だったが、この日は「これから結婚しても私、育児なんてできないし、親も今は手伝ってもらえるような体じゃないし……」と寂しそうに言葉を濁した。

いまだ恋愛に踏み切れないのは、あの刑事のことが脳裏から離れないからだろうか。婉曲にそれを尋ねると、「そのせいかはわからないけど、初対面の男の人に会うと、もう怖いというか、緊張してしまって駄目なんですよ」と吐露した。

西山さんは「自分のような思いは二度とさせたくない」と、再審の無罪判決を待たずに、冤罪被害者の救援団体「日本国民救援会」による裁判所への要請行動に参加。また、大阪の支援団体「たんぽぽの会」の集会に出席し、体験談を語るなどの活動も行っている。

「3月28日には松橋(まつばせ)事件(※1)の再審無罪が出るんです。熊本に行きたいけど、私は名張毒ぶどう酒事件(※2)のイベントに呼ばれているんです」と語る彼女の顔は明るく、「冤罪事件に詳しくなったね」と語りかけると「はい」と恥ずかしそうに微笑んだ。

 


※1:松橋事件1985年、熊本県松橋町(当時)で男性の遺体が見つかり、知人の宮田浩喜さんが殺害を自白したとして逮捕された冤罪事件。2018年10月に再審開始が確定した
※2:名張毒ぶどう酒事件1961年に三重県名張市で起こった毒物混入事件。奥西勝さんは農薬混入を自白し逮捕されたが、冤罪を主張。しかし、最高裁で死刑が確定し、獄死した