RPGへの準備

ところが当時、ファミコンの主な顧客であった子供たちは、ほぼ『マリオブラザーズ』のようなアクションゲームか、『ゼビウス*2のようなシューティングゲームしか遊んだことがありませんでした。

そういった「動的」なゲームだけが認知されている状況で、RPGのようにまったくアクション性のない「静的」なゲームの面白さを理解してもらうのは難しい時代でした。

『国産RPGクロニクル ゲームはどう物語を描いてきたのか』(著:渡辺範明/イースト・プレス)

RPGとはいわば、文章を読んで謎を解き、物語を前進させていくアドベンチャーゲームの要素と、攻撃力や防御力といったパラメータのやりとりで戦闘を表現するシミュレーションゲームの要素が組み合わさったジャンルです。

この馴染みの薄い2つの要素を同時に押し付けてしまうと、子供たちに面白さが伝わらないのではないか? という懸念がありました。

そのため、まずは画面上の文字を読み、情報を整理しながら「コマンド(行動の選択肢)」を選んでお話を進めていくというゲーム形式に慣れてもらいたいという狙いもあって、ファミコン版『ポートピア連続殺人事件』を発売したわけです。

これは一見まわり道のようで、非常にクレバーな戦略でした。