あの夜、私は底抜けに幸せだった

あの肚落ちはなんだったのか、我がことながらいまだによくわからない。好きで好きで仕方がなかった。いま考えれば綺麗事だが、世界中が彼の敵になっても私だけは味方だと自惚れてもいた。と同時に、これ以上一緒にいることはできないとも思った。我ながら支離滅裂だ。「愛情を注いであげられなかったことは申し訳なく思う」と、別れ話で彼が言った。ふざけやがってと憤った。馬鹿みたいに好きだったからね。お互い愛も情もあるが幸せではない状態が存在することを、私は知った。

別れてから3年以上経つが、SNSのせいで彼の動向は自ずと目に入ってくる。元気に暮らしているようで嬉しい。だが、そんなふうに思われていると知ったら顔をしかめるだろう。逆の立場だったら、私は「どの口が!」と腹を立てるに違いないから。

それでも、あの雪の夜はいつまでも私にとって特別なのだ。転ばないように手をつなぎ、大はしゃぎしながら大雪の東京を2人で見た夜が。あの夜、私は底抜けに幸せだった。


本連載+αをまとめた書籍が販売中!

年齢を重ねただけで、誰もがしなやかな大人の女になれるわけじゃない。思ってた未来とは違うけど、これはこれで、いい感じ。「私の私による私のためのオバさん宣言」「ありもの恨み」……疲れた心にじんわりしみるエッセイ66篇