先日同様に、まず稔のための弁当を握ってもらい、その後、上にぎり二人前をもらった。
 鮨をつまみながら、阿岐本が言った。
「騒音問題に、追放運動か……。田代さんは、さぞお困りだろうね」
「それがですね」
 日村は言った。「戦う気まんまんなんです」
「戦う気まんまん?」
「ええ。理不尽なことには屈しないと……」
「あの人は、時代が違ったら、立派な活動家になったかもしれねえな」
「はあ……」
 鮨を食べ終えると、阿岐本が言った。
「さて、寺に戻ってみようか」
「え……?」
 日村は、恐れていたことが起きたと思った。「追放運動の人たちの前に、我々が姿を見せるとまずいでしょう」
「まあ、とにかく行ってみよう」
「いや……。また警察が来ますよ」
 阿岐本はかまわずにさっさと店を出ていく。日村は勘定を済ませて車に乗り込んだ。
 稔がすぐに車を出す。すでに、阿岐本から行き先を聞いているようだ。
 これ以上、オヤジに逆らうわけにはいかない。日村は、何が起きようと腹をくくるしかないと思った。
 稔は先ほどと同じ場所に車を停めた。
「あれ……」
 日村は思わず声を洩らした。「追放運動の人たちがいません」
 山門の前には誰もいない。「警察が解散させたんでしょうか……」
 阿岐本が言った。
「土曜日だから、半ドンなんじゃないのか?」
「半ドンですか」
 今どき、半ドンは死語だろう。
 日村は稔に尋ねた。
「おまえ、半ドンって知ってるか?」
「いいえ。何ですかそれ」