原磯が言った。
「何か、私たちに用があるんじゃないんですか? じゃなきゃ、私は神主さんと話がしたいんですがね……」
 迷惑だからあっちへ行けと言っているのだ。
 阿岐本は平然としている。
「原磯さんにうかがいたいことがありましてね……」
「私に訊きたいこと……?」
「何でも、駒吉神社の氏子総代になりたいとおっしゃっているそうですね」
 原磯の警戒心がさらに強まるのがわかった。
「誰からそんなことを……。いや、……というより、何でそんなことを知っているんです」
「大木さんからお話をうかがって以来、神社に興味がありましてね」
「いったい、どんな興味が……」
「純粋な興味ですよ。日本人として、神道や神社をどうしたらいいかっていう……」
「ほう……」
 原磯は関心なさそうな口調で言う。「いったいどうしたらいいと思います?」
「原点に帰ることでしょうね」
「原点に帰る?」
「ええ。神社というのは、もともとは土地に住む人たちが、神聖な場所を大切にするということから始まったんだそうですね」
 すると、大木が言った。
「おっしゃるとおりです。沖縄では今でも、拝み所(ウガンジョ)といって、神聖視されている場所があります。他の土地でも、ある場所を通るときは口に草をくわえるというところもありますね」