義理人情に厚いヤクザの親分・阿岐本雄蔵のもとには、一風変わった経営再建の話が次々舞い込んでくる。今度は町の小さなお寺!? 鐘の音がうるさいという近隣住民からのクレームに、ため息を吐く住職。常識が日々移り変わる時代のなか、一体何を廃し、何を残すべきなのか――。
阿岐本が言った。
「じゃあ、ちょっと失礼しますよ」
「ああ、どうぞ」
大木が言ったので、阿岐本は彼の隣に腰を下ろした。日村は、原磯の隣だ。
原磯はすっかり落ち着きをなくしている。ヤクザが突然席にやってきたのだから当然だ。大木は平然としている。
阿岐本が言った。
「原磯さんというのは、なんとも粋なお名前ですね」
原磯がこたえる。
「そうですか……?」
「ええ。本名ですか?」
「もちろんですよ。どうしてそんなことを訊くんですか?」
「ハライソって、天国って意味でしょう? たしか、ポルトガル語でしたっけ?」
「ああ……。それ、偶然ですよ。それに、本来ポルトガル語じゃ、ハライソじゃなくてパライゾらしいです」
「なるほど……。大木さんとはいつもいっしょに飲んでらっしゃるようですね」
「それがどうかしましたか?」
警戒心丸出しだ。
大木が言った。
「そうですね。けっこういっしょに来ることが多いですね」
阿岐本がうなずく。
「こうしてご近所同士が飲める店があるってのは、いいことですね」