麻雀は、話をするだけでもスリリングであり、命がけ

このようになるとは、考えてもみないことであった。

『ムツゴロウ麻雀物語』(著:畑正憲 /中公文庫)

タクシーに乗れば運転手が振り返り、

「あちしも好きでしてねえ……」

とくる。女かなと身構えると、

「この前の明け番の日、五枚から国士無双(こくしむそう)をやったんです。五枚からですぜ。なあに初手からねらってたわけではねえんですが、手の方が勝手に動きまして、気がついてみたら形が出来てたってわけで。あるんですね、そんなことが。いやぁ、驚きました、驚きました。

ところでセンセイ、必勝法はあるもんでしょうかね」

話の継ぎ目でいちいち振り返るので、危なくってしようがない。麻雀の話に夢中になって事故を起こされたんじゃたまらない。私の前のシートの背に両手をかけ、半身をのり出すようにして、

「必勝法なんてないと思うよ。麻雀は運。運だけ。だから面白いんじゃないの」

と、受け答えをしなければならぬのだ。それでも運転手は興奮してきて、

「嫌な奴もいますぜ。こうやって牌(パイ)を積むでしょう……」

と、ハンドルから両手を離して、インチキ積みの手つきを再現しようとする。

「ハンドル、ハンドル!」

私は連呼し、冷汗をびっしょりかき、足を突っ張り、自分でブレーキを踏んだつもりになっている。麻雀は、話をするだけでもスリリングであり、命がけでもある。