ほとんどビョーキ

ホテルのドアマン、寿司屋(すしや)の兄ちゃん、ラーメン屋のおやじ―みんな麻雀好きであり、ここのところ負けがこんでいるけれど、勝つマジナイをくれと言ったりする。

顔なじみになると、誘われて断わってばかりいたのでは愛敬がない。それじゃと、店がはねた後、待ち合わせて卓を囲んだりする。

タケさんと識(し)り合(あ)いになったのも麻雀が縁であった。

その頃、彼はある鉄板焼屋に勤めていた。そこは新鮮な海のネタを揃(そろ)えているので、上京すると必ずと言っていいほど私は顔を出していた。私が行くと、いち早く発見し、手を上げて、自分の方へと招くのである。ひょろりと背が高いので、何かを見つけるのには便利であるようだ。

「ハイ、イカね。このモンゴウは一級品ですぜ。どうです、白板(パイパン)にそっくりじゃありませんか。昆布に紅葉おろしをつけて大三元(だいさんげん)。ははは、こりゃあ縁起ものですよ」

と、一人で悦にいるほどの麻雀狂でもあった。鯵(あじ)の叩きを前菜としてすすめながら、

「鯵はまあいい魚ですが、サンマはよくありません。あれは邪道ですよ。あんなもの麻雀じゃありません」

鯵がするりとサンマ(三人麻雀)にすり換わってしまうのだから、ほとんどビョーキと言ってもよかろう。