麻雀に関しては、私は実にだらしがない

ある夜、タケさんはニンニクを刻む手をふと停め、やおら調理台に両手をついて、

「お願いです。今夜店がハネたら、お手合わせをしていただくわけにはいきませんでしょうか」

と、真剣な表情をこしらえた。色白の頬(ほお)にぽっと紅がさし、目には涙まで溜(た)めていた。

「ああ、いいよ」

頷(うなず)いて私は、頭の中で、忙しく仕事の予定を変更してしまった。麻雀に関しては、私は実にだらしがないのである。

うまいことに私は最後の客だった。デザートのメロンを食べている間に、タケさんは仲間に連絡を済ませ、さっと着換えて裏から出てきた。

「今夜は最強メンバーを集めましたから」

と、心底嬉しそうだった。

※本稿は、『ムツゴロウ麻雀物語』(中公文庫)の一部を再編集したものです。

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ムツゴロウ麻雀物語』(著:畑正憲 /中公文庫)

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