ナチュラリストであり、動物研究家でエッセイストだった、ムツゴロウこと畑正憲さん。2023年4月5日に亡くなられたムツゴロウさんですが、実は無類の麻雀好きで、日本プロ麻雀連盟最高顧問という肩書もお持ちでした。そのムツゴロウさんの一周忌にあわせて刊行される『ムツゴロウ麻雀物語』より、「動物との交流もギャンブルも命がけだった」ムツゴロウさんの日々を紹介いたします。
科学の本ばかりある中に『麻雀放浪記』が
神田(かんだ)に親しい友だちが住んでいる。
その一家はカタブツばかりであり、理科系でかためたような家でもある。医者、物理学者、化学者などがずらりと揃っているのだが、その家に阿佐田哲也さんの著作がずらりと並んでいた。科学の本ばかりある中に、『麻雀放浪記』が入ると異様に目立つ。
「どうしたんですか。誰が好きなんです、麻雀を」
と訊いたら、実は、ときた。隣の分家にマアちゃんという変わり者がいて、麻雀が飯より好きだったという。裏に土蔵があって、その二階がマアちゃんの部屋だったが、阿佐田さんが毎日のようにきて一緒に打っていたそうだ。
「あれを好きと言うのね。くる日もくる日もですからね。顔なんて、蒼(あお)じろくなって、生きてるのか死んでるのか分からないようになっても打ってるんですから」
「戦時中?」
「そうね、戦争中もやっていたようね。いや、戦争になってから、余計烈(はげ)しくなったかもね。そうそう、たしか、近所にバレるといけないと気を遣ったりして」
「マアちゃん、どうしました」
「いなくなったの」
「消えたのですか」
「突然いなくなったの。それでね、イロさんの書くものの中に、マアちゃんが出てこないかって、みんなで調べたりしたのよ」
だから著作が揃っていたわけである。