やる以上徹夜であり、死ぬ思いで打った

東の一局。

起家(チーチャ)をひきあてた私には、七対子(チートイツ)もようの手がきた。どうしたらいいかなと思っていたところ、中盤で有効牌がたて続けに三枚やってきて四暗刻(スーアンコー)が出来てしまった。トン、トン、トンとリズミカルにやってきたあの感触は今もって忘れられない。無重力状態の中で泳いでいるような気分だった。

それから病みつきになった。

眠る時間を割いて打つようになった。

動物相手の実験はきびしくて、五日間、ほとんど眠らせて貰えないようなこともあった。

変化していく命が相手だから、眠ってなんかおれないのである。僅(わず)かに、三度の食事の時、食べながら眠るくらいだった。

ふらふらになっていながらも、六日目に先輩に挑戦したりした。やる以上徹夜であり、死ぬ思いで打った。

麻雀というゲームが体に合っていたのだろうか、負けはめったになく、おれは強いのだという自惚(うぬぼ)れが芽生え始めてもいた。

しかし、打つ相手に恵まれなかった。理科系の学生は忙しくて、他のことにうつつを抜かしてはおれないのである。学校に一週間ぶっ続けで泊まりこむことなどあって、アルバイトも出来ないので資金にも乏しかった。

私のビギナー時代は、阿佐田さんに比ぶべくもなかった。熱中して、一週間居つづけることなど出来なかった。世の中が平和になって、人びとが本業にいそしみだしていたからでもあろう。

※本稿は、『ムツゴロウ麻雀物語』(中公文庫)の一部を再編集したものです。


ムツゴロウ麻雀物語』(著:畑正憲 /中公文庫)

動物との交流も麻雀も命がけ。「勝負師」ムツゴロウと卓を囲んだ雀士たちの、汗と涙がにじむ名エッセイ。〈対談〉阿佐田哲也 〈巻末エッセイ〉末井 昭