「07年に木久蔵の名前を息子に譲って、僕が木久扇になる《W襲名》を考えたのも話題作りのためでした」(撮影:木村直軌)
半世紀以上にわたりお茶の間で親しまれている演芸番組『笑点』。その初期からレギュラーメンバーとして出演し、黄色い着物が目印の林家木久扇さんが、2024年3月で番組から卒業することを発表しました。その理由を訊ねてみると(構成=山田真理 撮影=木村直軌)

<前編よりつづく

誰かが入り口で宣伝マンをやらないと

僕は日本橋の商家の生まれで、両親が離婚して母がお金で苦労したのを見てきたので、「お金は大事」ということが身に染みています。なにしろ大好きな言葉が「入金」ですからね(笑)。芸人はお金の話をするもんじゃないとか、貧乏暮らしが芸を磨くなんてことはあまり信じていないんです。

07年に木久蔵の名前を息子に譲って、僕が木久扇になる「W襲名」を考えたのも話題作りのためでした。息子が真打に昇進する時、「何か希望はある?」と聞いたら「有名になりたい」って(笑)。それにはどうしたらいいか2、3日頭を悩ませて、僕は顔も売れているし、名前を譲っても仕事的に問題はないだろうと考えた。

親子で「W襲名」なんて、落語はもちろん歌舞伎の世界でも前例がありません。テレビ各局のニュースはもちろん、「新幹線の電光掲示板にも流れたぞ」って友だちが電話で教えてくれるほど大きな話題を呼びました。

僕の新しい芸名を『笑点』で公募したら、3万通以上も応募があって、そこから「木久扇」に決めた。そうした話題性もあり、また親子の物語として皆さんの人情に訴えたことで(笑)、W襲名のお披露目興行は全国80ヵ所、最終的に200万人以上のお客様を集める大入り満員・大成功となりました。