ところが、60歳の定年が近づくにつれ、同期のみんながザワザワし始めた。関連会社で働くという人もいれば、ディレクターの仕事を続けるためにほかの制作会社に移籍するなどさまざまな選択をする人が増えてきて。

そこで初めて、人生100年時代なのだから、私もこの先、自分が何をしたいのか考えなきゃいけない。頼もしい後輩たちも育ってきたので、自分の道をもう少し自由に歩いたり、今までできなかったことをやってみてもいいんじゃないかと思うようになってきて……。

ちょうどタイミングよく早期退職制度が導入されたこともあり、体力的にも精神的にも「飛び立つなら今しかない!」という声が心の奥から聞こえてきたのです。

そんなふうに考えるようになったのは、19年から担当しているNHKラジオ第1放送の番組『ごごカフェ』の影響も大きかったと思います。それまでずっとテレビの仕事をメインで担当してきたので、「ラジオに異動」と言われたときは一抹の寂しさを感じたことも確かです。

地上波の番組に出ていないと、「アナウンサー、辞めたのですか?」と聞かれたり、「ラジオに行っちゃうのは残念ですね」と言われたりしたこともありました。でもそんなマイナスの感情は脇に置き、「これまでとは違う新しい世界を作ろう!」と、プラスの方向に舵を切っていきました。せっかく新たな場を与えられたのだから、前向きな姿勢で翼を広げていこうって。

おかげさまで、フリーになった今も『ごごカフェ』の仕事は続けさせていただいて本当に楽しい。アナウンサーとして原稿を読むのではなく、パーソナリティとして、体験したことや自分自身の意見を伝えられますし、リスナーのみなさんも私という個性を受け止めてくださっている。しかも、毎回約3時間半、好きなだけ喋れるんですよ。

当初は「私1人で3時間半は無理!」とひるんでいたのですが、いざスタートしてみると、後から後から話したいことが湧いてくる。このラジオの経験が、もっと広い世界に飛び出して、自分自身の言葉で何かを伝える仕事がしたいと思うようになったきっかけでもありました。