「あの母親のもとで、私たち、よくまっとうに育ったと思う。(笑)」(はづきさん)

 

カンナ 一昨年末に母からもらった手紙に、「さすがに頭も身体も弱ってきました。私のトレードマークの《明るさ》を懸命に演じていますが……なるべく、お父さんやあなたたち姉妹にこれ以上、迷惑をかけないように、明るくポッツリといなくなりたい!!」と書いてあった。

母の手紙はいつもセンチメンタルで、《ちょっとアンニュイなメイコさん》を演じている。だから「いつものおセンチね」と思ったけど、今になって読み返すと泣けてくる。「お母さん、本当にそう思っていたんだな」って。

はづき 明るくポッツリ……言った通りになったよね。肺塞栓は、肺の血管に血栓が詰まって、わりとすぐに逝くみたい。たぶん父に起こされて、小指に掴まって背中をさすられた時、「今だ!」と思ったんじゃない?

カンナ やっぱり女優さんよね。

はづき 母は「自分は2歳半から仕事をしていたのに、代表作がないのがコンプレックス」と言っていたけど……。

カンナ 最期が代表作!

はづき まさか、あんな映画みたいな最期になるとは!

カンナ 最愛の夫にもたれかかって、まさに眠るように。まったく苦しまなかったんでしょうね。本当にきれいな顔だった。

はづき 美人女優みたいだったわよね。

カンナ そう、そう。《中村メイコ》は喜劇女優のはずなのに。

はづき 家族で見送る時、「しらふでは三途の川を渡れないので、唇をウィスキーで湿らせてあげていいですか」と納棺師の方にお願いして……。

カンナ 私たちが「お棺がお酒臭くなっちゃう」なんて言い合っている横で、父はず~っと「きれいだよ、きれいだよ」と母に話しかけていた。「前髪をもう少しきれいに直してあげよう。ブラシはどこだ」と探して、髪を梳かしてあげたりして……。