意識的に文脈化と脱文脈化を行う習慣を
学んだことを別の文脈でも応用できるという、「学習の転移」が起こりやすくなるためには、どうすればよいのでしょうか。
ここで知っておきたいのは、文脈化と脱文脈化の効果です。
「文脈化」とは、抽象的な知識に文脈を与えること、すなわち具体的な事例と結びつけることです。この文脈化が、学習の転移のために重要な役割を果たすのです*2。
先ほどの問題で言うと、「四方八方から送った小さな力を集結させて大きくし、標的をアタックする」という方法を、抽象的な知識として学んだとしても、いざ具体的な問題に直面した時に、この知識を思い出せるかと言うと、心もとない限りです。
一方、要塞問題という具体的な文脈の中に埋め込むことで、はるかに記憶に残りやすく、また思い出しやすくなります。
しかし、先ほどの実験結果からも、知識をただ文脈に埋め込んだだけでは、その文脈を離れると、うまく使えない場合が多いことがわかります。
具体的な事例だけが呈示されると、よく似た文脈への転移(これを近転移と言います)は生じるかもしれませんが、見かけの異なる文脈への転移(これを遠転移と言います)は起こりにくいのです。
遠転移のためには、カバーストーリーすなわち事例の表面的な特徴に惑わされず、その事例の中から本質的な構造を取り出す「脱文脈化」のプロセスが必要です。
文脈化と脱文脈化の両方のプロセスを経ることが、学んだことをしっかりと身につけて、応用できる頭の状態を作ると言えます。
このことをメタ認知的知識として念頭に置き、意識的に文脈化と脱文脈化を行う習慣をつけておくとよいでしょう。
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*1. Gick, M. L., & Holyoak, K. J. (1980) Analogical problem solving. Cognitive Psychology, 12, 306-355.
*2. Resnick, L. B. (1989) Introduction. In L. B. Resnick (ed.), Knowing, learning,and instruction: Essays in honor of Robert Glaser. Hillsdale, NJ: Lawrence Erlbaum Associates.
※本稿は、『メタ認知』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
『メタ認知-あなたの頭はもっとよくなる』(著:三宮真智子/中公新書ラクレ)
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