岸見先生「どんなことも楽しむためには真剣でないといけない」(写真提供:Photo AC)
文部科学省が発表した「21世紀出生児縦断調査(平成13年出生児)」によると、約6割が1ヵ月間で1冊も本を読まないそう。「自分の人生で経験できることには限りがあり、読書によって他者の人生を追体験することから学べることは多い」と語るのは、哲学者の岸見一郎先生。今回は、岸見先生が古今東西の本と珠玉の言葉を紹介します。岸見先生いわく、「どんなことも楽しむためには真剣でないといけない」そうで――。

それだけでかまわない

三食をつましく作って食って、近所を散歩して俳句作って、あとは家にある本とCDを消化するだけの人生で別にいいのだが。
(天野健太郎「はじめに」『風景と自由 天野健太郎句文集』)

これは、台湾文学の翻訳者である天野健太郎の言葉である。

「つましく作って食って」、後は好きなことをする。「別にいい」のである。

そのような生き方をよしとしない人はいるかもしれないが働かないわけではない。贅沢しないで好きなことをして生きる。他にどんな人生を生きるというのか。

実際には天野はこれ「だけ」ではなく、翻訳者として多くの仕事をした。7年間に12作の翻訳を出版している。呉明益の『自転車泥棒』の翻訳が出版された5日後、天野は47歳で亡くなった。

旧約聖書の「コヘレトの言葉」には何事も、例えば、生まれるにも、死ぬにも「時」があって、人が苦労してみたところで何になろうとある。

たしかに、自分でいつどこでこの世に生まれるかを決めることはできないし、長生きしたいと思っても、いつどこでどのように死ぬかを決めるわけにはいかない。