さまざまな理由で不仲になったり、距離ができてしまったりした親の介護や経済面の援助が、いざ目の前に迫ってきたら……。「親の面倒などみるつもりはなかった」という3人のホンネから浮かび上がる、親と子それぞれの事情とは――アオイさん(仮名)の場合、母を苦しめた父に嫌悪感を持っており…(取材・文=武香織)

父が病気になったとたん「手伝え」

親の世話といっても、それは介護だけではない。経済的な負担を強いられることもある。中学時代、両親が離婚したアオイさん(38歳・保険会社勤務)がそうだ。

3歳年上の姉は父(現在64歳)についていったが、アオイさんは浮気や酒癖の悪さで母を苦しめる父を嫌い、就職を機に家を出るまで母と2人暮らしをしていた。父親に対する嫌悪感が影響してか、男性不信になり独身を貫いている。

1年前のある日のこと、たまにメールでやりとりする程度しか付き合いのない姉から一本の電話がかかってきた。「お父さんが脳梗塞で倒れたの。たいした後遺症はないけれど、歩行や食事の介助が少し必要だから、お父さんの家に私と一緒に住んで、面倒をみるのを手伝ってくれない? お父さんもそれを望んでいるし」と。

「正直、開いた口がふさがりませんでした。姉は幼い頃からお父さん子で、両親が離婚するときも『お父さんの面倒は私がみる!』と断言して、父と家を出て行ったんです。そして、私には一円の養育費も払ってくれなかった父と何不自由なく生活し、高卒の私と違って大学まで行かせてもらった姉。

父の援助を受けてハワイで盛大な結婚式を挙げたうえ、2年前に離婚してシングルマザーになったあとは父の家に出戻り、経済面でかなり恩恵を受けている様子でした。それなのに、父が病気になったとたん、『手伝え』はないでしょう? しかも父と私は、かれこれ四半世紀も絶縁状態。どうして私が……、というのが正直な気持ちでした」

そこでアオイさんはホンネを明かさず、父の家から職場まで片道3時間かかることを理由に拒否。すると姉は、「じゃ、あなたの家にお父さんを住まわせて世話をしたらいいじゃない。あなたはお気楽な独身なんだから。お願い、引き取って!」とすがってきたのだ。

「はらわたが煮えくり返りました。わが家はワンルームの狭いマンション。母への仕送りをしながらの生活で、父の面倒をみるために広い部屋に引っ越す経済的な余裕もないことを説明しました」