「そのアパートやマンションの住人を、あんたはどうしようと考えているんだ?」
「神社や寺に足を運ばせる工夫をするんだよ。今までのような祭じゃなくて、人があつまるイベントをやるんだ」
 大木は渋い顔をした。
「祭ってのは、神様との交流だ。催しをして人を集めればいいというもんじゃない」
「あんた、いつも言ってるじゃないか。神社の祭の主役は神じゃなくて人間なんだって」
「ほう……」
 阿岐本が言った。「それは、なかなか興味深いお言葉ですな」
 原磯と大木が同時に阿岐本を見た。
 阿岐本は言った。
「祭は神様のためのものと思っていましたが、そうじゃないんですね?」
 大木がこたえた。
「神社の成り立ちをお話ししたでしょう。人々の思いが集まったのが神社です。祭は、人と神が喜びを交わすものです。神との関わりは楽しいものだ。それを実感するのが祭なのです」
「これはいい話を聞きました」
 すると、原磯が身を乗り出すように言った。
「だからね、マンションやアパートの住人たちにも、その楽しみを広めなきゃならない。そうだろう。そうすりゃ、町内も活性化するし、必然的に神社も栄える」
「あんたを氏子総代にすれば、そういうふうになるってことかい?」
 原磯はうなずいた。
「やってみるよ。町内会も動かす」
「あんた、町内会長じゃないだろう」
「藤堂さんとも、ちゃんと話をする。マンションやアパートの住人が町内の催しに参加してくれたり、会費を払ってくれるようになれば、藤堂さんだって喜んでくれるだろうし……」
「なんと……」
 阿岐本はにこやかに言った。「今どき、地域の世話役など、面倒なので誰もやろうとしないのですが、あなたは立派だ」
 原磯は、ぎょっとしたように阿岐本を見て、すぐに目をそらした。ヤクザにほめられたことなどないだろうから、どうしていいかわからないのだ。