阿岐本がさらに言った。
「町内会に神社の氏子総代、そして寺の檀家総代……。いや、本当にたいしたものだ」
 原磯は落ち着かない態度でこたえた。
「地域のためを思えばこそですよ」
「あなたのメリットは何ですか?」
「え……?」
 原磯は虚を衝かれたように目を丸くした。
 日村も虚を衝かれた。いきなりの直球勝負で、驚いた。
 阿岐本は笑顔のまま言った。
「お仕事もお忙しいでしょうに、それだけ地域のことに尽力なさるのには、何か理由があるんじゃないかと思いましてね。普通、よほどのメリットがなければ、そんなことはできないでしょう」
「損得じゃないんですよ」
 原磯は言った。「世の中の人全部が金のために生きているわけじゃないんです」
「ほう。損得じゃない?」
 阿岐本にそう訊かれて、原磯はますます落ち着かない様子になった。
「そりゃあ、多少算盤(そろばん)は弾(はじ)きますよ。地域が活性化し安定すれば、人々が住みたがる街になります。そうすれば、不動産の価値も上がる」
「そうでした。あなたは不動産業者でしたね」
「ですから、私が地域のために尽くすのは、商売のためでもあります。それは否定しません」
 阿岐本はうなずいた。
「いやあ、実にご立派です」
 そして、阿岐本は大木に言った。
「お楽しみのところ、お邪魔しました」
 日村は立ち上がった。
 阿岐本が席を立ち、出入り口に向かう。カウンターで、ママやアヤと談笑していた真吉がスツールから立ち上がる。
 阿岐本と真吉が店を出ていくのを見ながら、日村は会計をした。おそろしく良心的な値段だった。