義理人情に厚いヤクザの親分・阿岐本雄蔵のもとには、一風変わった経営再建の話が次々舞い込んでくる。今度は町の小さなお寺!? 鐘の音がうるさいという近隣住民からのクレームに、ため息を吐く住職。常識が日々移り変わる時代のなか、一体何を廃し、何を残すべきなのか――。


     13

 神主の大木が原磯に言った。
「どういうことなんだ? うちの氏子総代だけじゃなくて、田代んとこの檀家総代になりたいって……」
 原磯は、グラスを手にして一口飲んだ。水割りだろう。
「神社も寺もさ、地域の活力を反映するだろう?」
「地域の活力を反映……? あんたの言い回しは難しいんだよ。もっと普通の言葉を使えないの?」
「つまりさ。町内が活気にあふれていれば、氏子も檀家も、ちゃんと神社や寺を支えられるってことだ。祭になれば、大勢集まって神輿(みこし)を担ぐだろうし、境内が傷(いた)めば寄進もする。寺だって、お盆だの法事だのでちゃんとお寺さんをお招きする。けどね、だんだんとそういうのがなくなってるじゃないか」
「そんなのは、あんたに言われなくてもわかってるさ。身に染みてな」
「だから、俺がそういう雰囲気を変えたいんだよ」
「どういうふうに」
「若い世代に声をかけて、縁日だの祭だのの行事に参加してもらう。このあたりはさ、昔から住んでいる人たちが高齢化して、二世代目、三世代目はみんな町外に出ていってしまっている。そして、集合住宅の住人がどんどん増えているわけだ。そうすると、人口は増えても地域は活性化しないわけだよ」
 原磯は俄然饒舌(じょうぜつ)になった。
 なるほど、この話術で町内会の実権を握っているわけだ。