「あら、みんなもう帰っちゃうの?」
「はい。お邪魔しました」
「今度はゆっくり飲みに来てよね」
最近、お愛想でもこういうことを言われることがなくなってきた。排除条例が世の中に浸透しているのだ。
「ありがとうございます」
日村はそう言って店を出た。
路地に車が停まっていた。日村が後部座席の阿岐本の隣に乗り込むと、稔は車を出した。真吉は助手席だ。
阿岐本が言った。
「原磯さんは、何とも奇特な人だねえ……」
日村はこたえた。
「本心がわかりません」
「損得じゃないとおっしゃっていた」
「そんなはずはありません」
「ほう。そう思うかい?」
「最も損得を考える人物に見えました」
「ふん。おめえも、人を見る眼ができてきたようだねえ」
「誰が見てもそう思うでしょう。何か魂胆があって、大木さんや田代さんに近づいているんでしょう」
「さあて、その魂胆だが……。おめえ、何だと思う?」
「わかりません」
それきり、阿岐本は事務所に着くまで口を開かなかった。