阿岐本が言った。
「何だ? 言ってみな」
「駒吉神社の大木神主は、金銭的に困っておいでなんですよね?」
 永神がうなずいた。
「ああ。かなり苦しいらしい」
「だったら、神社を買ってくれる人がいるというのは、渡りに船なんじゃないですか?」
 阿岐本は永神に尋ねた。
「その辺はどうなんだ?」
「もし、神社が身売りしたいって考えているんだったら、誠司の言うとおりだな。だが、実際に寺や神社が売り買いされた後は、ろくなことにならないらしい」
「ろくなことにならない?」
「檀家の知らないうちに寺が引っ越して、勝手に墓を移された、なんて例もあるらしい」
「お骨は?」
「墓石だけ移して、お骨がどこにいったかわからねえっていうんだ」
「そいつはひでえな……」
「だいたい、宗教法人を買おうなんてやつは金目当てだから、手に入れた後まっとうな宗教活動を続けるわけがねえんだ」
「駒吉神社も同じような目にあうってことか?」
 永神はかぶりを振った。
「だから、噂があるだけなんだ。その噂も、多嘉原会長が祭から追い出されたってところから生まれた噂だから、どれくらい信憑性があるかわからねえ」
「実情は、直接神社に訊いてみねえとわからねえってことだな」
「ああ、そうだな……」
「あの……」
 日村は言った。「もし、噂が本当だとして、多嘉原会長との付き合いがなくなったとたんにちょっかいを出すということは、ブローカーは自分らと同じ稼業のやつでしょうかね?」
 阿岐本が言った。
「おい、誠司……。先走るなよ」
「すいません」
「けどまあ……。その線は充分に考えられるよな……」
「噂を耳にしたとたんに、こいつは早く知らせねえとと思ってな。それで連絡したんだ」
「わかった。ごくろうだったな」
 阿岐本が言った。「引き続き、その噂ってやつについて調べてくんねえか」
「もちろんだ」
 永神がにわかに積極的になったような気がする。これまでは、どう考えても金になりそうにない流れだった。
 だが、宗教法人ブローカーが絡むかもしれないということになり、金のにおいを嗅ぎつけたのかもしれない。
「誠司」
 阿岐本は言った。「俺たちは大木神主に会いに行こう」
「わかりました」