義理人情に厚いヤクザの親分・阿岐本雄蔵のもとには、一風変わった経営再建の話が次々舞い込んでくる。今度は町の小さなお寺!?　鐘の音がうるさいという近隣住民からのクレームに、ため息を吐く住職。常識が日々移り変わる時代のなか、一体何を廃し、何を残すべきなのか――。


　　　　　１４

　翌日は日曜日だが、ヤクザに土日はない。日村も若い衆も事務所に詰めていた。
　午前十時に永神がやってきた。
「おう。十時にアニキにアポ取ってんだけど……」
　日村はこたえた。
「でしたら、じきに降りてくると思います。こちらでお待ちください」
　ソファをすすめた。だが、永神がそこに座る前に、阿岐本が姿を見せた。
「健太郎、待たせたな」
　永神がこたえた。
「いや、今来たところだ」
「奥に来てくれ。おい、誠司。おまえも来い」
　永神に続いて奥の部屋に行こうとしたら、真吉がつぶやくように言った。
「オジキ、健太郎っていうんだっけ……」
　奥の部屋では、阿岐本と永神が向かい合ってソファに腰を下ろした。日村も「座れ」と言われて、阿岐本の隣に腰を下ろした。
　阿岐本が尋ねた。
「用ってのは何だい？」
「神社の件を嗅ぎ回っていたら、妙な噂を耳にした」
「妙な噂？」
「神社を買いたがっているやつがいるって……」
「神社を買う……？　そりゃどういうことだい」
「ちょっと前から、そういうことをやるやつらが出はじめたんだけどね」
「そういうことってのは？」
「宗教法人の売り買いだよ」
「ほう……」
　阿岐本は日村に言った。「おめえ、そういう話、知ってるか？」