空襲
授業を受けていると、お昼ごろに空襲(くうしゅう)警報のサイレンが鳴った。トットたちは、校庭のすみっこにある防空壕(ぼうくうごう)に避難(ひなん)した。
防空壕の入り口を閉めると、中はまっ暗になってしまう。最初のうちは体を丸めて息をひそめていたけど、なにもすることがないから、小さな声でお話をして時間をつぶした。
「アイスクリームを食べたことがある」とだれかが言って、トットも「私も」と言った。
なかなか警報解除のサイレンが鳴ってくれない。まっ暗な防空壕の中では、どうしても大豆のことを考えてしまう。
トットは我慢(がまん)ができなくなって、ポケットから封筒を取り出すと、一気に2つぶ、落とさないように注意しながら口にねじこんだ。
「ボリ、ボリボリ」
いますぐに、残りぜんぶを食べたくなった。でも、もしいまこれを食べてしまったら、家に帰ってから、なにも食べるものがなくなってしまう。
「がまん、がまん……」
そう思いながら、トットは考えた。
「私はいま、大豆を10つぶ持っている。ひょっとしたら、もうすぐ、この防空壕に爆弾(ばくだん)が落ちて、みんな死んでしまうかもしれない。だったら、いま食べたほうがいいかもしれない」
「でも、防空壕には爆弾が落ちなくても、家が空襲で焼けてしまって、帰ったらパパもママも死んでしまっているかもしれない。そうなったらどうしよう。やっぱり残りの10つぶは、いまのうちに食べてしまったほうがいいのかなあ」
ぐるぐる、ぐるぐる、いろんなことを考えていると、トットは悲しくなってきた。
「家が焼けていないといいけど」
そう思いながら2つぶ食べた。