夢の献立

しばらくすると、「空襲警報解除」を知らせる声が聞こえてきて、トットたちはやっとのことで、防空壕から出ることができた。

「今日はもうこれで終わりです。帰っていいです」

先生にそう言われたけど、家が近づくにつれて焼けていないかが心配になってきた。でも、朝、出たときのままの家が見えてきて、ひと安心。

「ああ、よかった。家は燃えていないし、ママたちは生きている。それに、大豆もまだ8つぶ残っている」

トットは、ほっと胸をなでおろした。

おなかがすきすぎて眠れないときは、夢の献立(こんだて)を絵に描(か)いて遊んだ。

この遊びはママが発明したもので、食べたいごちそうの絵を描いて、「いただきます」「もぐもぐ」「おかわり」なんて言いながら、食べるマネをする。あまい卵焼きや焼いたお肉の絵を描いて、「もぐもぐ」をくり返していた。

配給は海藻麺(かいそうめん)とかいうものになってきた。

海辺に打ち上げられた厚い昆布(こんぶ)を粉にして、こんにゃくを、うどんのように長く伸(の)ばしたものに混ぜこんだのが海藻麺だ。

なんか、カエルの卵みたいでやだったけど、仕方がない。もう調味料もなくなってきていたので、ただお湯でゆでて、カエルの卵をズルズルとすするのだった。

※本稿は、『続 窓ぎわのトットちゃん』(講談社)の一部を再編集したものです。

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