ほんの限られた冬の富士山鑑賞を、今こそおおいに楽しんでおかなければ損をする。

そう思っていた矢先、用事で朝早く、池袋から埼玉方面へ向かう特急に乗った。それがはたしてどこらへんだったかの記憶は曖昧なのだが、おおかた所沢か入間のあたりだったのではないかと思われる。

突然、富士山が現れた。しかも、なんと雄大な姿であることか。

え、もしかしてここらへんのほうが、都内の我がマンションより富士山に近いのかしら? ウチから見える富士山の倍の大きさだ。ちょっと悔しい気持になった。静岡県や山梨県に住んでいるならまだしも、埼玉の人たちも、こんなに美しい富士山を毎日、楽しむことができるのか。ちょっと嫉妬した。

そんな驚愕事件からしばらくのち、ゴルフ仲間の紳士と、やはり早朝、同じ車でゴルフ場へ向かっているときのことである。前方に雪をかぶった富士山があった。しかもその富士山、前面にそびえ立つ、少し小さな山の黒い稜線と左半分が見事に重なっていた。まるで白い富士山が、黒いショールを片方の肩にかけていそいそお出かけするような姿に見える。色っぽい。

「おお、これは珍しい光景ですね。スマホに撮っておこう」

紳士はすばやくご自身のスマホを取り出して、タイミング良くカシャッと撮影なさった。