MARUU=イラスト
阿川佐和子さんが『婦人公論』で好評連載中のエッセイ「見上げれば三日月」。以前「たった一夜の」の回で触れたテレビ番組の企画で阿川さんが買い込んだハーブたちのその後について――。
※本記事は『婦人公論』2024年1月号に掲載されたものです

バルコニーのプランターに並ぶハーブたちが息を吹き返しつつある。

今年の猛暑にやられて、すっかり生気を失いかけていたが、気温が二十度台になったあたりから、リング上でカウントダウンされていたヘロヘロボクサーが、腕を動かし、腰を折り、なんとか立ち上がろうとしているかのように、少しずつ復活し始めた。

とはいえ、すでにノックアウトされてしまったハーブもいる。

夏の初め、テレビ番組の企画でガーデニングの専門店へ行き、その愛らしさに惹かれてつい買い込んでしまったハーブや植物たちの話である。ミント、レモンバーム、バジルにフェンネル、クランベリーとミニソテツ。加えて「蚊を寄せつけないハーブ」という怪しげな葉っぱも購入した。

さらに、月下美人の仲間であるサボテン科の。その華麗な白い花は、たった一輪とはいえ見事に咲き誇り、一夜かぎりの幻想的な夢を届けてくれた。もう一回ぐらい蕾をつけてくれるかと期待していたが、その後は室内でひっそりニョキニョキと緑色の細長い葉を伸ばすのみである。

一方のハーブちゃんたちは、暑いとはいえ植物だ。たっぷり水を与え、太陽とそよ風に当てることこそが健康の秘訣と思い定め、ずっとバルコニーに置いておいた。それがどうやらいけなかったらしい。