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阿川佐和子さんが『婦人公論』で好評連載中のエッセイ「見上げれば三日月」。新型コロナが猛威を振るい始めたころから、馴染みのないアルファベット用語やカタカナ言葉が増えてきたように阿川さんは感じるそうで――。
※本記事は『婦人公論』2023年11月号に掲載されたものです

近頃、急速に馴染みのないアルファベット用語やカタカナ言葉が増えてきた。そういう現象が起こり始めたのはずっと以前からだったという認識はあるけれど、ここ数年、その勢いがさらに加速した気がする。

加速し始めたのは、新型コロナが猛威を振るい始めたことが要因として大きい。そもそもコロナという言葉も、それ以前は「太陽のまわりを囲む炎」だと思っていたのに、今は誰かが「コロナ」と発すればただちに感染症を想起するだろう。

そのコロナ周辺に膨大な関連用語が次々に出現した。いわく、パンデミック、エビデンス、クラスター、ソーシャルディスタンス、サーベイランス、PCR。

医療専門語だからしかたないとはいえ、テレビなどで「知っていて当然ですよぉ」のごとき得々とした顔で専門家や番組司会者が述べているのを聞くたびに、「日本語に直してくれんのかい!」とどやしたい衝動にかられる。が、まもなく聞き慣れる。そして気がつくと、自らも「十年前から知ってますよぉ」のごとき平然とした顔で会話に組み入れている。

でも、小さい声で言うけれど、本当はそんなによくわかっていない。だいたいは理解している。でも、本質的なことはわかっていない。だからつい、言い間違える。