話が三文字アルファベット略語から離れたが、とにかくあらゆるものがデジタル化された頃から人々の会話にカタカナが増殖し始めた。
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わからーん!
さんざん文句をつけつつも仕事に関わることだから、少しずつ覚えるよう努力する。覚えるうちにだんだん使えるようになる。人間はこうやって飼いならされていくのだろうか。
個人的に特殊用語に飼いならされた最たるものは、ゴルフである。
ゴルフを始めた当初はまったく理解できなかった。ドライバー、スプーン、アイアン、パー、ダボ、ティー、ハンドファースト、アドレス、ドロー、スライス、フック、スピンなどなど。ゴルフ仲間の会話にほとんどついていけなかった。
「僕はグリーンが苦手でねえ」
そうおっしゃる殿方に、
「え? グリーンが苦手なんですか? それは大変ですね」
ゴルフ場はどこも芝生に覆われている。当時、私はスタート地点から旗が立っているゴールまで、すべての「緑色をした地面」をグリーンと呼ぶのだと思っていた。違った。
スタートしてゴールへ辿り着くまでの、芝を短く刈り込んだ広いところはフェアウェイ。フェアウェイを外れた草が生えているところはラフ。そしてグリーンとは、フェアウェイよりさらにきめ細かく芝が整えられている区域のことを指し、その区域内にゴールとなるホールがくり抜かれている。
そんなことも知らずにゴルフを始め、技術もさることながら用語だけでしばしアタフタさせられたが、いつのまにか覚えた。好きなことは頭に入るのだ。