ことほど左様に患者を行ったり来たりさせ、治療方法を何度も変更し、医者たるべき私の意志にブレがあったせいか。あらゆる処置の甲斐もなく、悲しい結果を迎えた次第である。

かまい過ぎもいけない。過干渉が子供の自活力を奪うのだ。もし私が子供の母親になっていたら、ロクな教育はできなかっただろうと、植物を眺めながら悲嘆に暮れた。

十月に入る。少し放っておいたのがよかったのか。もちろん猛暑のピークを過ぎたことが元気回復に繫がった第一要因だと思う。

シソの葉の間から花芽が伸びてきた。これは復活の兆しと見ていいのか。わからないが、嬉しい。

レモンバームとミントの勢いも好調だ。ただ、ここで新たな問題が発生した。ミントを植えてあるプランターの土の表面に、不気味な茎が這っているのを発見した。茎の節々にごま粒ほどの小さな緑色の葉っぱもついている。いったい何の葉だろう。ためしに一つちぎって嚙んでみたところ、ミントの香りがした。

「ミントは地植えをしてはいけないんですって。あたりにどんどんはびこって、他の植物を枯らせてしまうほど強いらしいですよ」

秘書アヤヤが呟いた。ミントと同じプランターにシソが同居している。これはシソ君の危機なのか。植え替えなければいけないの? 元気になったと喜んでいると、たちまち新たな難問が降りかかってくる。

これから冬を迎える。今度は寒さ対策だ。ああ、どうすればいいのよ、ハーブちゃん!


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