直腸肛門角に着目
直腸と肛門がなす角度を「直腸肛門角(かく)」といいます。ふだん、直腸は恥骨(ちこつ)直腸筋という筋肉に引っぱられているため、ほぼ直腸肛門角は直角に保たれています。
恥骨直腸筋は、恥骨の内側を始点として直腸の背後を囲んで再び恥骨に戻ってくる筋肉です。この恥骨直腸筋が収縮(しゅうしゅく)して直腸を引っぱることで、直腸は「く」の字に曲がり、便は直腸内にとどまっているわけです。
そして、「考える人」のポーズをとって、上半身を35度の角度まで前傾させると、曲がっていた直腸が真っすぐになり、同時に肛門括約筋も緩んで、便が出やすくなるのです。
この理論は、流体力学の視点からも納得のいくものでした。みなさんは中学校の理科、あるいは高校の物理の授業で「パスカルの原理」を習ったことを覚えているでしょうか。
パスカルの原理とは、簡単にいうと、静止している流体に加わる圧力はすべての部分で等しく伝わるというものです。
たとえば、台形の形をした固い物体をスポンジのような柔らかいものに押し付けた場合、台形の大きい面を押し付けたときと、小さい面を押し付けたときでは、スポンジのへこむ度合いが違います。つまり、面積が小さければ小さいほど、そこにかかる圧力は強くなるわけです。
直腸は、曲がっているときよりも、真っすぐになっているときのほうが、その面積が小さいのはいうまでもありません。したがって、「考える人」のポーズをとると、直腸にかかる圧力がより強くなるため、便が出やすくなるのです。
この論文を読み終えたときに、私の脳裏に便秘を解消するセルフケアのキーワードが浮かび上がりました。それは、私がふだんの治療において最も重要視している「骨盤(こつばん)」でした。