(はい、〈カラオケdondon〉です)
 筧さんの声。
「筧さん? あの、みちかです!」
 (おお、みちかちゃん)
「あの、今バイトから帰ってきて母たちからニュースで」
 (夏夫の父親だろう? 長坂さんの件)
「そうです! 夏夫くんって」
 (もう上がった。悟くんと一緒にな)
「悟くんと?」
 何で悟くんと一緒に?
 (悟くんがバイトしてるガソリンスタンドの店長さん知ってるだろう。河野さん、あの長坂さんと同級生だって)
 知ってる。
 (一緒に来て、夏夫を連れて行った。お母さんのところへな。それでな)
 ちょっと言葉を切った。
 (いや、その辺は電話では話せないな。明日にでも〈バイト・クラブ〉へおいで。夏夫もちゃんとバイトには出るって言ってたから)
「あ、わかりました。とりあえず、なんともないっていうか、平気なんですね?」
 (平気ではないが、夏夫もそれから夏夫のお母さんもとりあえず、なんともない。安心していい。それから、三四郎(さんしろう)くんも由希美(ゆきみ)ちゃんももう知ってる。二人ともさっき来ていたから)
「来てたんですか?」
 (その辺もね、電話じゃ話せないから明日にでも)
「わかりました。ありがとうございます」
 電話を切った。
 二人してずっと私を見て、聞いていた。
「夏夫くんは、普通なのね?」
「普通だって。でも、早く上がってお母さんと一緒にいるって」
「そう」
 さよりちゃんが、息を吐いて下を向いた。
「こまったわー。志織ちゃんとまた楽しく会ってお話できるかなって思っていたのに」
 そうだよね。この間、再会したんだもんね。
 それなのに、幼馴染みが夫を殺しちゃったかもしれないんだもんね。
「でも、さよりちゃん本当にその黒川さんとは全然会ってないんだよね?」
「会ってないわよ。もう十年以上も。でも、だからって何でもない顔をして志織ちゃんと会うことなんかできないわ」
「なんていう巡り合わせだろうねぇ」
 なみえちゃんも、そう言って溜息(ためいき)をついた。
「それで? その志織ちゃんのところは、どうするのか何か聞けたのかい」
「ううん」
 首を横に振った。
「電話じゃちょっと話せないって」
「まぁ商売中だからね〈カラオケdondon〉さんも」
「でも、明日行ってくる。〈バイト・クラブ〉。三四郎も由希美ちゃんも今日来ていたんだって。だから知ってるみたい」
 どうして二人して今日行っていたのかわからないけど。
「ニュースで観たんだろうさ。それで、慌てて行ってみたんじゃないかい」
「そうかもね」
 心配して駆け付けたんだ。夏夫くんのことを。
「どうしよう。明日行くけど。夏夫くんに会うけど、その黒川さんのことちゃんと話しておいた方がいいよね」
 さよりちゃんが、考える。
「もう前に話したんでしょう? 幼馴染みが暴力団にいるって」
「話した」
 名前までは言わなかったと思うけど。言ったかな? たぶん言ってない。
「じゃあ、隠したってしょうがないわよ」
「まだ犯人って決まったわけじゃないけれどね」
「そうだね」
「明日になれば、また捜査が進展してるかもしれないから。どっちにしても、そういう話があるってことは言っておいた方がいいわ」
 そうしておく。
 携帯電話があればすぐに連絡取れるのになって思う。でも、まだ買えないよね。それに〈バイト・クラブ〉の皆は、まだ誰も携帯電話持ってないしな。