これも俺が選んだ人生である
本当は俺も就職して家族を持つとか、親の期待するまともな人生を歩むチャンスはいくらでもあったのだろう。
しかしその道を選ぶことはなかったので、今でも若い時と同じか、それ以上の頻度で海外に通い、旅をして、取材を重ねて記事を書き、動画を発信し続けている。
あの頃よりも少しグレードの高いホテルや飛行機を選択できるようになった。時には空港のラウンジで出発時間まで過ごすこともある。
そこには喫煙所はないし、旅先で出会った同世代の連中との再会もない。
切ないわけではない。俺が同じ場所をずっと見続けてきたから気になるだけ。本当はもっと早くに卒業しているべき生き方なのだ。これも俺が選んだ人生である。
ただ、バンコクの喫煙所は俺にとって若い頃の自分とその周りにいた旅人たちの存在証明のようなものであったのだ。だから、それがなくなった時に少し寂しくなった。そんな感じなのである。
※本稿は、『タバコの煙、旅の記憶』(産業編集センター)の一部を再編集したものです。
『タバコの煙、旅の記憶』(著:丸山ゴンザレス/産業編集センター)
危険地帯ジャーナリストであり裏社会に迫るYouTuberとしても大活躍中の丸山ゴンザレスが、旅先の路地や取材の合間にくゆらせたタバコの煙のあった風景と、その煙にまとわりついた記憶のかけらを手繰り寄せた異色の旅エッセイ15編。海外の空港に到着して一発目のタバコ、スラム街で買ったご当地銘柄、麻薬の売人宅での一服、追い詰められた夜に見つめた小さな火とただよう紫煙……。煙の向こうに垣間見たのは世界のヤバい現実と異国の人々のナマの姿だった。ウェブ連載を加筆修正し書き下ろしを加えた待望の一冊。