(写真:丸山ゴンザレス)
ジャーナリストの丸山ゴンザレスさん。危険地帯や裏社会を主に取材し、現在はテレビに加えてYouTubeでも活躍中です。その丸山さんに欠かせないのがタバコ。スラム街で買ったご当地銘柄、麻薬の売人宅での一服、追い詰められた夜に見つめた小さな火とただよう紫煙…。旅先の路地や取材の合間にくゆらせたタバコの煙がある風景と、煙にまとわりついた記憶のかけらを手繰り寄せた丸山さんの異色の旅エッセイ『タバコの煙、旅の記憶』より「バンコクで出会った景色」を紹介します。

“タバコの煙”とそこにひっかかってくる記憶

コロナ禍で海外への渡航がままならなかった時期、過去の旅を思い浮かべることが増えていた。とりとめもなく、いろんなことを思い出す。なかでも“タバコの煙”と、そこにひっかかってくる記憶は、ひときわ深く思い出に刻まれていた。

空港に到着して一発目のタバコ、喫煙所を探して右往左往したこと、喫煙所でライターの貸し借りから始まった会話、スラム街でご当地タバコを買ったこと、NYで携帯灰皿を「意識高いな」といじられたこと、追い詰められた夜にホテルのテラスでタバコの火をじっと見つめたこと、異国の地で体にまとわりつくように漂うタバコの香り……。

二度と会うことない人たちや今では存在しない場所も含めてタバコの煙のあった風景がいくつも浮かび上がってきた。俺の旅とタバコの煙は思いのほか強いつながりがあるのかもしれない。

世相の移り変わりとともに、俺のタバコ好きも落ち着いてきた。若い頃、どれだけタバコが吸いたかったのかを思い出してみる。