4月20日、ナゴヤ球場の中日戦で
4月20日のナゴヤ球場の中日戦でした。6回無死一塁。投げていたのは、ドラフト1位のサイド右腕・斉藤学(まなぶ)でした。
中日ベンチから「頭に行け」という声が聞こえたように思いました。内角のストレートをライトスタンドに放り込んで、中日ベンチを黙らせたい。そんな気持ちで打席に立っていました。
初球は外角から甘く入ってくるスライダーだったと思います。普段ならそのスライダーを仕留めていました。
でも、私の狙いはインハイのストレートをたたいて、中日ベンチを静まりかえらせること。斉藤投手がベンチの指示通りにインコースを突けるように、あえてストライクを一つあげたのです。
そして、2球目です。球が頭付近に向かってきたのです。内角を狙い打つにしても、もっと謙虚に仕掛けていたら、よけられたはずでした。冷静さを欠き、内角に来るものと決めつけて打ちにいったので、反応が遅れてしまいました。
調子の良さも、私を傲慢にさせたのかもしれません。その前の打席では鹿島忠(かしまただし)から左中間席へ2試合連続の3号2ランを打っていました。「今年も40本は絶対に打てる」という手応えがありました。
前の打席で左翼席に放り込まれた中日ベンチが「内角に行け」というのも分かります。来るなら来い、お前らを黙らせてやるという気持ちだったのです。
若い斉藤投手をなめてしまった面もあります。これが星野仙一さんとかベテラン投手なら、同じコースに投げられても違う結果だったかもしれません。
※本稿は、『虎と巨人』(中央公論新社)の一部を再編集したものです。
『虎と巨人』(著:掛布雅之/中央公論新社)
1985年以来、38年ぶりの日本一に輝いた阪神タイガース。
2年連続のBクラスに沈み、阿部慎之助新監督のもとで戦う読売ジャイアンツ。
ファンに愛され続ける“ミスタータイガース”が、「伝統の一戦」を繰り広げる二つのチームについて、その魅力を語りつくす。